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2006年07月26日

「海賊版被害額」の誤謬 (2/5)

複製者の心理的側面

 あなたは、よく駅前などで宣伝のために配られているポケットティッシュを受け取ったことがあるだろうか。実は、このことが 「海賊版被害額」の誤謬を考えるうえで、非常に大きなキーになる。

 前回は被害額の算定方法に問題があることを、物的な財と情報財との比較によってシンプルに説明したが、 それ以前に大きな問題が横たわっている。それをポケットティッシュを例にとって考えてみよう。

 われわれは、確かに配られているポケットティッシュを受け取ることがある。それは、なぜだろうか。言うまでもなく、無料(タダ) だからである。「ひとつ50円です」と言われてわざわざ手に取ることはないだろう。

 ではひるがえって、特にネット上において違法な複製物をダウンロードする場合のユーザーの心理はどうか。こちらも、 無論タダだから手に入れようとする場合が多いだろう。「この音楽ファイルは1曲100円です」と請求されるのなら、 はじめから合法サービスを利用するはずだ。

 要点はここにある。「対象物を受け取る」という面においては同一であっても、「無料だからとりあえずもらっておく」といった場合と 「必要だから買う」といった場合とでは、まったく次元が異なるのである。つまり、海賊版を手に入れた人物が、 必ずしもそれがなければ正規版を購入したとは限らないということだ。

 そこで、現在多くの著作権者(特に企業)がしていることを考えてほしい。彼らはこの二つを混同したうえで、被害額を計算している。 換言すれば、違法な複製物を入手したユーザーはすべて、本来ならば正規品を購入したはずだと。

 これがいかにおかしなことかは、賢明な読者諸氏ならばすでにおわかりだろう。たとえるなら、 広告用のポケットティッシュが1,000個さばけたから、販売品のほうも1,000個売れるはずだと考えるようなものである。

 もちろん中には、正規版を購入する予定だったのが無料という魔力にひかれて海賊版を入手してしまった場合もあるだろう。いずれにせよ、 ポイントは「無料だからとりあえずもらっておいた」人物と「金を払うつもりだったが海賊版を手に入れてしまった」人物の見分けは、 事実上できないということだ。それは本人にしかわからないことであり、 場合によっては気軽にダウンロードしたから本人でさえよく覚えていないといったことも有り得る。

 これが、カジュアル・コピーの現実だと言っていい。海賊版業者のように金銭的利益のために明確に脱法行為をするのとは異なり、 オンライン、特にファイル共有ソフトを利用した違法な複製品の場合はよくも悪くも“気軽に”著作物のやり取りをしているだけなのである。

 実際、ファイル共有ソフトのユーザーは入手したコンテンツのすべてを使っているわけではないとよく言われている。 少しでも欲しいと思ったものをとりあえずダウンロードし、ハードディスクなどにためておく。いわば、 現実に使うかどうかはともかく“コレクション”として収集しているだけなのである。ただ集めているだけなのに、 それが本当の被害につながるかは極めて疑わしいと言わざるをえないだろう。

 当たり前だが、ここでは「被害が出ていない」と論じているのでは決してない。おそらく被害が出ているのだろう。だが、 その多寡はわからないということを主張したいのである。

 ただし、カジュアル・コピーと企業(プロフェッショナル)が組織的に違法な複製品を利用する場合とでは、 はっきりと分けて考えたほうがいい。一般のユーザーと違い、 企業などプロの世界においては必要だから海賊版を利用していることが大半である。なぜなら、 それがなければ業務が成り立たないから。今でも企業による不正利用があとを絶たないが、 この面では100のライセンス違反があれば100ライセンス分の被害が出たと考えても差し支えないように思う。

 とはいえ、違法複製による被害を考えるうえではもっと根本的な問題がある。それは情報財の場合、 被害を被害といえるのかということである。

(次回につづく)

投稿者 KATANA : 2006年07月26日 19:35

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